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日記・更新履歴・らくがきなどです。たまにR18

20180401 嘘の日おめでとう

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20180401 嘘の日おめでとう

毎年やってるフォルユ嘘本です。そろそろほんとに出そう。
(今年はじゅうらいちゅんのおっぱマウスパッドも4/1祝いにあげようと思ってたけど、ちょっと間に合わなかったので嘘関係なく進めていこうと思います)(嘘をつく日というより嘘つきを愛でる日になりつつある)



『レプレティメント・「パナギア」』
『ブギーポップ・イン・ザ・ミラー「パンドラ」』発行二十年をお祝いするために、天色くんと舞阪くんがパンドラ生存組をまきこんでトムとジェリーみたいな追いかけっこをするフォルユ(殺意7割・友情2割・愛情1割)小説同人誌を作りました。
せっかくなので性癖詰めこんでます(兄弟if/モブが全部ユージンシリーズ/MPLS化/殺し愛時々欠損)
小説:雨想よう
挿絵:マルヨマルイチ


■ 本文サンプル ■
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 いつともしれない時間の、どこともしれない場所に、ふたりの少年のような男が立っている。
 ふたりの足元には、血まみれの死体が転がっていた。男のひとりが膝をつき、腹が裂かれた女の胴体に覆いかぶさるようにして、ほとんど肉のついていない手のひらをこすりつけはじめた。
 やがて死体の皮膚が、薄い紫色をしたゼリーのように透き通って、ぐにゃぐにゃに変わっていく。
「どうしておまえほどの戦士に、指から劇薬を出すなんてしみったれた能力が与えられたんだろうな」
 ひとりが顔をしかめてぼやいた。
「おまえの本当の価値に俺の力が合わされば――本物の最強にだって負けはしないというのに、ユージンよ。本物を超える贋物になれる。それはもう、本当に本物ってことだろう」
「そういうこと言うってのが、気にしてる証拠だよ。どっちでもいいじゃないか」
 ひとりは「耐性があると始末が厄介だな」とか言いながら、顔もあげずに作業に没頭している。
「おまえはよくても、俺は顔のパーツだって同じ写し鏡なんだ。気にするなってほうが難しいんじゃないか?」
「ぼくは人殺しが人より少し上手いだけの量産品で、きみだって物としての価値はぼくとは比べものにならないけれど、あいつみたいな特殊な何かでもない。ぼく達ふたりで最強のあいつに勝てて、だから何なんだ? 勝ったからってなにも変わらないし、誰かがくれるかもしれない表彰状のために、ぼくらの力を合わせてあのかわいそうなノータリンをつつき回すのか? 馬鹿らしい」
「おまえと話してると、この世の中すべてがつまらなくて価値のないことのように思えてくるな。それもひとつの能力かもしれんな」
 ひとりがうんうんと頷く。ほかの誰かの仕草だとわかっているから、偽物くささがより際立って見える。
 こいつは誰かの真似をしたり、なにかのふりをするのがものすごく苦手なんだなと考えながら、男は何の意味もない女の死体を、はじめから存在しなかったかのようにこの世界から消していく。
 死んだ女の腹から子宮が抜き取られていることには、もちろん気付いていたが、面倒なことになりそうだったので、そのまま忘れてしまうことにした。

(第一章より)

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「救いといえば、あたしなんかはまだ見せかけだけでもヴァギナがある。でも精度が高い奴はそれすらついてない。最悪でしょ。ペニスやクリトリスの感覚までぜんぶ舌にまわしちゃってるの。分析のたびに絶頂ものの快楽を感じているんじゃないかしら。とんだクチマンコ野郎よ」
「その顔でやめてくれ」
 うんざりして止めると、奏天祈(かなでいのり)は海影の数少ない友だちの少年の顔で、ひひひ、と下品に笑った。
 香純はあの少年がそんな顔をしたところを見たことがない。いつも気の弱そうな、おどおどとした笑顔を浮かべるだけだった。もっともそれは相手を油断させるための作り笑顔だったのだが――。
 祈は香純のほうを上目遣いでうかがっていた。前に女の子に、ほかの女の子のことを考えているでしょう、と言われたことがある。そのときのことを思いだしてぎくりとした。
「香純くんの友達があたしたちの誰なのかは知らないけど、あんたたちみたいな半端者――ごめんね悪気はないのよ、本当のことでしょ――を守って組織を裏切るなんて真似をするやつ、あたしよりも馬鹿に決まってるわ」
「まあ、そうだろうな。あいつは迂闊だったってことになるだろう」
 あの男は香純たちを監視していたくせに、みんなのことをとても大切に思っていて、命をかけてまで守ってくれた。すくなくとも今まで香純がつるんでいた誰よりも間抜けなお人好しだった。悪の組織なんかにいるのは似合わない。
「そいつが特別できが悪いって言ってるんじゃないのよ。あたしたちみんなお情けで生かされてるだけなんだから。先なんてないの。まあ、唯一の例外はあいつくらいね」
 祈の舌が急にもつれた。ひとりごとに慣れた孤独な人間がそうであるように、早口で聞き取りにくいものになる。
「あいつはね、あたしたちと同じパーツでできてるくせに、ひとりだけ飛びぬけてた。泥をこねてつくられたみたいなぐちゃぐちゃで汚いあたしたちなのに、あいつときたら宝石みたいにぴかぴかしてたんだもの。名前はユージン。天才だった。
 もうほとんど失敗作っていってもいいくらいに半端なところがないの。心みたいな、そういうわけのわからないものを投げ出したかわりに、あの強さを手に入れたんだって気がする。あたしたちはみんな彼が誇らしかったけれど、めちゃくちゃ怖かったわよ。
 ユージンは殺しの才能がずば抜けてて、あいつが殺そうとして死ななかったものはいない――任務でもなんでも、あいつが殺すと決めたものは生きてはいられない。そういう『殺したいものを必ず殺せる』能力を持っているMPLSなんじゃないかってやっかみ半分で言われるくらいでね。
 あまりにも優秀すぎるってんで、あの魔女裁判みたいな鑑定を受けることになったときにも、ちょっと睨みつけただけで担当者が小便を漏らして命乞いしただとか、あのいるのかいないのかもわからない伝説の『最強』と唯一対等にわたりあえる相棒だったとか……ねえ香純くん、あんたたちにとってはあたしみたいな下っぱでさえ都市伝説みたいなものなんだろうけど、あいつはその都市伝説にお化け扱いされるようなやつだったのよ」
 祈は煙草に白い手を伸ばし、慣れた手つきで火をつけた。姿は天使のように愛らしいから、罰当たりなコラージュのように見える。
「今頃どこでなにしてるかなあいつ。きっとまたどこかの暗闇で、かわいそうな獲物の息をとめて、この世にいなかったみたいに消してしまってるんだわ」
 祈は煙草をがさがさの唇にくわえ、馬鹿みたいに細い手足を投げ出してソファにしなだれかかった。見た目は少年のようだったが、キャミソールとショートパンツから突きだした手足は同年代の女の子のものだった。
 そういえば、自分はなし崩し的に、事情はどうあれ、この女を金で買ったんだったな、と思いだす。まわりの人間が見たら、安いモーテルの一室に男女がふたりきりなんて、そういうことしかしないと考えるだろう。
 それでもこの女は友だちと同じ顔をしているから、変に意識をしてしまうのは自分が変態みたいで嫌だった。あの男と、次にどんな顔をして会ったらいいかわからなくなりそうだ。
 祈は全部わかっているみたいに、いやらしい笑いを浮かべていた。熱っぽくてどこか憑かれたような表情が、またもとに戻っていた。
「だからさ、香純くんが探してるあたしと同じ顔をしたその友達も、きっとユージンのことが好きだったんじゃないかな。この作り物の顔は嫌いだけど、あたしたちに唯一残った最後の尊厳でもあるの。ぼくたちあたしたちはあんなに強いユージンと同じ顔なんだって」
「じゃあ、俺の友だちの名前を聞いたことはないか。あいつがもし生きてるなら、いやきっと生きてると信じたいんだが、その、見つけてやりたいんでな。あんたに心当たりがあれば……」
「だめ、聞かないわ。だって裏切り者でしょう。そんな身の程知らずのことは知らないほうが幸せなのよ」
 祈は投げやりな態度で香純の友だちを馬鹿にした。頭にくる。意趣返しのつもりで、「あんたの尊厳っていうそいつにも、同じ舌がついてたのか」と聞いてやった。
「やめてよ。ユージンはそんなじゃない」
 祈の反応は予想以上だった。むきになった幼児のように大きな声を上げた。
「ユージンは強くて正しくて誰も汚せない、誰のことも好きにならない。いつも死体の山のてっぺんにひとりぼっち。でも男の下でみじめによがるだけのあたしみたいなのとは違って、寂しいなんてひとつも感じないの。あいつのことで下品な冗談を言うなら、あたしはあんたを殺すからね」
 祈のすごい剣幕に、さすがの香純も気圧された。操られるように頭を下げる。
「あ、ああ。悪かった」
「わかればよろしい」
 祈は香純に謝られるとすぐに機嫌を直した。感情表現がストレートなのだ、この女は。
 よく似た相手を知っている香純は懐かしい気持ちになった。まるであの頃の七音と天色が目の前にいるようだ。
「どうやらあたしって、よっぽど香純くんの友だちに似てるみたいね」
 祈は口の端を上げて、クールににやりと笑った。笑い方はあの二人には全然似ていないんだがなあ、と香純は思った。

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 お喋りの合間に『ノー・ウーマン・ノー・クライ』をハミングしながら、祈が砂浜を歩いていく。灯台が見えた。夏の日差しの下、海から吹いてくる強い風にあおられて、白いワンピースがひるがえる。
 あいつは歌が苦手だったな、と香純は考えていた。あれも嘘だったのか。それとも、本当に音痴だったのか。
 歌を知らなかったのかもしれない。
 天色優は、ボブ・マーリィを聴いたことがあるだろうか?
 祈のお喋りはとりとめなく続いていく。
「……誰かの身内を消したり、偉そうな奴の縄張りを荒らしたりしてさ、そんなだから敵も多いわけよ。だから、奴らはあたしらを見つけると気晴らしに使うわけ。たまったもんじゃないでしょ。同じ顔してる下っぱに、あいつには怖くてできないことをする。ぶんなぐったり犯したり壊したり……。とくに最悪だったのは、自分じゃなにもできない種無しデブがいて、交配用の実験体を何人もけしかけて「あー、すっとした」って顔するのよ」
 祈は平気な顔で言った。
「とんでもなく下品な台詞を言わされたりね。聞きたい?」
「いや……」
「また友達のこと考えてるでしょう。そういう時は『ぼく』と目を合わせないからね。『香純くん』は」
 祈がにやにやして、香純の顔を覗きこんできた。
「やめろ」
「そういうの、変わってるわ」
「……きっと俺は、負い目があるんだと思う」
 あの男に全部おっかぶせて、それでなんとかなってしまったことが――。
「なにもしてやれなかったんでな」
「ふーん。ま、いいわ。あいつと同じこの顔のせいでさんざんな目にあってきたけど、あたしはあいつのこと嫌いじゃなかったよ。なんていうか、あたしらみたいな半端な生まれの合成人間も、あんなに強くなれるんだって……最後に残された希望みたいな、そんな昔話がなかったっけ。
 あたしたちみんな、あいつになりたがってた。誰かに憧れられたって、本人はそんなこと知らないみたいな顔するんだろうけどさ。気をひくのは怖かったけど……だって殺されちゃうかもしれないもの。ま、それでもいいと思うこともあったわ。
 あるでしょ、女の子たちの間で噂になってる、『ブギーポップ』だっけ、一番綺麗なときに殺してくれる死神。
 生まれた瞬間がもう最悪なら、これ以上落ちていく前に終わりたい――ユージンならきっと叶えてくれる。やっぱり都市伝説だわ、あいつ」 
「白馬の王子様みたいなやつだな」
「いや、そういう感じじゃないわね。覇気はないし、ぼそぼそした喋り方するし、冷たくてそっけないし、猫背だし、人と目は合わせないし……あ、こっちを見ては来るわけよ。でも視線が合わないの。たとえばカメラのレンズを向けられても、目があってる、って感じがないじゃない。そんな、機械みたいな……あたしみたいな生き物のなりそこないじゃなくて、殺すだけに作られたなにかみたいな、そう、お迎えに来てくれる天使みたいな奴なのよ」

(「ユージンを探して」より)

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 舞阪は興味深そうに祈を見つめた。
「きみはとても綺麗な顔をしている。失礼だが名前を聞いてもいいかな」
「なによ、ナンパ?」
 祈は怪訝そうな顔をした。
「まあいいわ。あんたお金持ってそうだし、顔がいいし。祈よ。残念だけどあたし今はお客とってないの。あたしを買った男がそういうの嫌がるのよ。ほかのお客の相手をされるのが」
「ふーん。そんなに金を持ってるようには見えないがな」
 舞阪が香純をじろじろ見て言った。無理もない。金を持っているようには見えない。
「家出するときに当面の金は用意してきた。女ひとり買うくらいなんでもないのさ」
 香純は適当なことを言ってごまかした。舞阪は香純のことはどうでもいいらしく、祈のほうに興味があるようだ。
「祈さんは俺の友だちによく似ている。それで彼の身内かと思って声をかけてしまったんだ。きみは天色とかいう名前を聞いたことがないか」
「え、天使? ああ、テンジキ。それなら、あたしは知らないけど」
 祈が香純のほうを見た。おまえの友だちとは違うのか、という仕草だ。彼女は香純のときと同じで、舞阪をすぐに信用してしまったようだ。悪の組織の構成員にしては警戒心がなさすぎた。
 天色優の名前を出すのはまずい、と香純は直感した。舞阪とかいうこの男がもし天色と同じ組織の人間だったら、今は裏切り者の優をつけ狙う追手ということになる。ごまかしたほうがいい。
「いいや、知らない」
「ならいいんだ」
「天色くんの写真は持ってる?」
 祈が人懐っこく尋ねた。舞阪は哀しそうに首を振る。
「いや。どっちも写真を撮られるのが嫌いだったんだよ。俺と彼とはずっとふたりきりで生きてきた幼なじみで、この世でたったひとりの友だちなんだ。俺はちょっとばかり特殊な環境にいたんで、天色くんのほかには心を許せるものも信じられるものもない。だから彼の行方がわからなくなってからは、ずっと心配でたまらないんだ。このあたりで天色くんを見かけた人がいると聞いたら、彼に会いたくていてもたってもいられなくなったんだ」
「そう。かわいそう。きっとすぐに見つかるわよ」
「そうであることを祈るよ」
 舞阪は微笑した。不思議なことに、彼もまた優にすこし似ている気がした。
 この男を信用してもいいのか。天色の友だちなら教えてやったほうがいい。嘘は言っていないようだ。それでもなぜか口に出してはいけないような、そんな直感がある。

(……「ユージンを探して」P68より)

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「やっと会えたな。おまえをずっと探し求めてきた」
 舞阪が声を震わせて言った。
「おまえが俺の前から消えてから寂しかった。おまえみたいな愛想のない男でも、いなくなると孤独が耐えがたいほどに深まった。そのとき気付いたんだ。おまえこそ俺の最高の友だちだったのだと。今は半身のように感じている。愛しさすら覚えるほどに」
 舞阪は頬を紅潮させていた。何百年もの間ひとりぼっちで過ごした生き物が、ようやく仲間を見つけたときのように、目にはかすかに涙を浮かべてすらいた。
「嬉しいぞ。楽しい、面白すぎて涙が出てきた。おまえが自分の意志を持ち、運命の音を聴きいれ、こうして組織を裏切って俺の前に現れた。昔から思い描いていた夢とは立場が逆だがそのとおりになった。俺の夢はかなったんだユージン。最強の俺、何者をも殺すおまえ。本気でぶつかりあったら、どちらが最後に立っているか――」
 舞阪と天色の視線が真っ向からぶつかりあう。お互いに引くつもりはない。今この場所で相手を殺さなければ、どちらの道も未来へ繋がりはしないのだから。
「はじめようか、殺しあいを!」
 舞阪が満面の笑顔で叫んだ。

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「おまえからの最大級の友情を感じるぞ。俺を殺そうという! 大丈夫だ俺はこの世でたったひとりのおまえを理解できる友だちだからなすべて受け止めてやる。こうしておまえと対峙し本気の友情を確かめあえる日が来るなんて、今日は最高の日だと思わないか。俺は今日まで生きてきて今このときほど楽しかったことはない!」
「おまえはどんなときでも『今一番楽しい』んだろう。その幸せそうなにわとり頭は、相変わらずのようだな」
「あいかわらず顔だけでなく言うことも素晴らしいな! こちらこそだ、おまえの殺気が大好きだ。その人でなしの目を抉りだして握り潰したらどれだけ胸がすくだろう……さあ、機械みたいな口を開いてはやく聴かせてくれ、俺を殺すと宣言しろ! 戦うためだけに組み立てられたおまえの身体はしなやかで美しい、女のような指が毒の水で濡れているさまが俺を興奮させる。勃起するほどに。いや、恥ずかしがることはない。おまえのすべてをさらけだして見せてくれ。戦闘の天才たる合成人間ユージンの全力を! 誰をも殺せるおまえを殺して潰して切り刻んで――」
「困った男だな」
 ユージンは、上機嫌ではしゃぐフォルテッシモから目を逸らさない。

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「大丈夫なのか、優」
「いや。気持ち悪いし、ふつうに嫌だよ」
 天色は表情も変えずにばっさりと切り捨てる。海影が見慣れていた気の弱そうな天色優の顔からはかけ離れた反応だったが、もう気にならなかった。
「あいつはいったいなんなんだ?」
「きみと同じ人間だ。でもずっとひとりぼっちだったせいで、頭がいかれちゃってる。寂しがり屋なんだろうね。昔の自分を見てるみたいで可哀想だけど、関わっていると命がいくつあっても足りない」
「たしかにヤバそうな奴だったし、できればもう会いたくないな。そうだ優、いや、ユージンか……」
 こいつが――天色が〈ユージン〉だったのだ。同じ顔をした同類たちに、最後の希望と呼ばれていた合成人間。
「優でいいよ。いちおう『それ』がぼくの名前ということになってるけど、あまり好きじゃない。きみたちにそう呼ばれるのはいやなんだ」
「組織を裏切ったって聞いたが、大丈夫なのか。俺もさ、その、おまえを守れたらいいんだが、なんか……悪いな」
 優は、今更なにを言っているんだ、というふうに微笑んだ。それは正体を隠して仲間たちと過ごしていたときよりも、天使のように純粋で眩しかった。
「いつ死んでもいいってずっと思ってた。今も思ってる。でも前とは意味が違うんだ。あんまり嬉しくても、もう死んでもいいって思うんだね」
(……「ユージンを探して」P92より)

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 その宝石は氷のように青白く輝いていて、天色優の身体から分泌されるリキッドの色にそっくりだった。舞阪は宝石をうっとりと見つめた。
「美しいだろう。おまえが俺の隣にいるのがしっくりくるみたいに、俺によく馴染む。おまえがくれた骨の炭素に高熱と高圧をかけて作ったんだ」
「誰もくれてやった覚えはないんだがな」
 天色は、今は舞阪の左腕にくっついている、ちぎられた自分の腕を見て冷たく言った。
「俺は大好きなおまえとずっといっしょにいたいからな。朝も昼も夜も闘い続けていたい。おまえだってそうだ、おまえほどの強さを受け止められるのは俺だけだ。ずっと俺たちは友達だユージン。俺はおまえとの友情に報いたい。決して手は抜かない。約束しよう」
「おまえの言う友情は、どうも僕の知っている感情と違う気がする。もう結婚しようよって段階じゃないのか、それ」
「そうか、おまえもそう思うか。やはり俺たちは言葉にしなくてもわかりあっているらしい。俺もそれでもいいかもとか思っていたんでな」
 だめだこいつ――天色の顔はそう言っている。舞阪にはわからない。

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「なにを言っているのかわからない」
「まあ考えてみると別人だろうな。すまん。許せ。人違いだったようだ」
 イナズマはフォルテッシモの靴の下で、ああ、と気の抜けたうめき声をあげた。同じような呆けた顔で瓦礫の上に飛び降りたフォルテッシモは、そのまま立ち去ろうとして、もう一度イナズマに振り返った。この数年なかった混乱。隣からユージンがいなくなってからだ。あの男ならおまえにだけは言われなくないと言っただろうが。
「いや、聞いておかなければならないことがあった。おまえと同じ名前の男をこのあたりで見なかったか。そいつの顔……顔は、俺とそっくり同じなんだ。何を言っているかわからんという顔だが、俺だってそうだからそんな顔をするな」
 いつもならここでエンブリオの茶々が入るところだが、あの人でなしはここにはない。おそらくユージンの首に下がっていて、何の反応もないことに不満をがなり立てているだろう。

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 トオルは――舞阪徹はフォルテッシモと同じ顔で、偽装しているときのユージンにそっくりの柔らかい口調で言った。
「幼いころに君はちょっとした思いつきをしたよね。自分自身をまっぷたつに裂いてみたらどうなるだろう? 好奇心にかられて試してみたときは、うまくいかずに大変な目にあった。今では笑い話だけど。
 でも君が死にかけている間に、強すぎる君の扱いに難儀していた人たちが、割れた半分を大事に取っておいたことには気がつかなかったでしょう。彼らは君の力を削ぎ、君が造反したときに君を殺す存在を作ろうと考えた。
 自分でもわかってたんじゃないかな、フォルテッシモ。君と対等たりうる者はなく、君を殺せるのは君しかいない。誰かに造られたものってくくりでは、僕はとても人間に近い合成人間ということになるのかな。よくわからないけど。僕は君自身だ」
 徹の声はとても優しい。晴れた春の日の天の色のように穏やかだ。
「僕は寂しかった。君が見ないふりをした感情をすべて持ってましたからね。見てのとおり、僕の両腕は義手だ。『自由にできるから』不便はしたことがないけど。
 君から分かれた僕は僕の心を手に入れた。じゃあ僕から分かれた僕の両腕にだって奇跡が起こらないはずがない。僕の右手と左手。
 君はあれを半身のように感じていると言っただろう。さすがに鋭い。その通りだよ。十把一絡げの合成人間のなりをしちゃいるが、あれは元々君の一部だったんだ。僕と君の弟になる。フォルテッシモよ」
 自分自身と同じ顔をした男に、フォルテッシモは憤慨した。
「つまらん。おまえやあいつが俺の一部だとか、そんなら永遠に俺を越えられないってことになるじゃないか。そんなことはありえない。げんに俺には、奴が何を考えているのかさっぱりわからないんでな」

(……「割られた男」P162より)

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 その男のことを知っているのはごく少数の者たちだけだった。ユージンだって、とある事情がなければ、その男のことを知らずに過ごしたに違いない。
 フォルツァート。その名前は『強制された強さ』をあらわす音楽記号であり、強くあることが役目だった。
 課せられた任務は『最強殺し』。不確定要素に満ちたMPLSであるフォルテッシモが組織を裏切ったときに、すみやかに抹殺するという仕事を抱えていた。
 フォルテッシモが組織に見出されたときに、生まれたとされている。収集されたあらん限りのデータを写し取り生まれた彼は、特別製とも失敗作ともつかない、合成人間でありながらとても人間に近い存在だった。 
 つまるところ『最強殺し』の合成人間フォルツァートとは、『最強』フォルテッシモのバックアップデータであり、彼の足元にくっついている影のような存在であった。彼は『人』のコピーなのだ。
 フォルツァートは、組織の監視下で成長してきた――薬品の投与を受け、合成人間としての最上級の教育を受けて。それは、『異なる環境下で過ごした場合、どちらが生き残るか?』という実験も兼ねていた。
 彼のもともとの容姿は素体とそっくりそのまま同じで、ただ肌も髪も不気味に白く色が抜けており、赤い目がぎらぎらと輝いている。


 その男はユージンよりも前に組織を抜けていた。当時はそんなものどうでもよかったし、気に留めたこともなかった。そんなやつもいたかな、というくらいで、実感もわかなかった。そのころは、そいつと同じ顔をした男と毎日顔を突き合わせていたので。
「僕はねユージン、おまえは笑うか馬鹿にするだろうけど、この『最強』の力で弱い者を救う、正義の味方になろうと思うんだよ。強いものには弱いものを守る義務がある。そうだろう」
 フォルツァートが大真面目な顔をして言った。
「ぼくに友達ができたという話を聞いて笑わなかった君のことを、決して嗤ったりはしないよ。ただ、兄さんがどうしてそんなふうに考えたのかは興味があるけれど」
 人間の家族を偽装していたころのような呼び方をするのは、昔よりも少しぎこちなかった。
「あのユージンとゆっくり話をできる日がくるなんて、嬉しいよ。――組織を抜けたとき、追ってきたおまえに殺されかけたろう。エレーサは死んでしまったが、僕はなんとか生き延びた。あのとき、血まみれで倒れている僕を助けてくれた女の子がいてね。まだ若いけどかっこよくて、聞けば正義の味方だっていうじゃないか。目から鱗が落ちるようだったというか……力を振るって誰かが死ぬのに嫌気がさしてたんだけど、僕次第で誰かを守るような存在になれるって思うと、世界が変わるようだった」
「あのときは……」
「ひとつだけ聞かせてくれないか。おまえの兄弟は、苦しんで死んだのかな」
 ユージンは黙っている。「そうか」とフォルツァートが頷いた。
 その目に憎しみはなかった。
「いい。わかってるんだ。人が殺されたときにピストルを責めるやつはいない。そういうことだろう」
「きみは変わったな」
「そうだね。彼女に出会ってからだと思う……うまく言えないけど、なにか、守られていると感じるんだ。自分以外の誰かに、目にも見えないなにかに……」
「……わかるような気はするよ」
「もちろん、おまえのことを忘れた日はなかったよ。さあ、ふたりとも先はないんだ。後悔は少ない方がいい」
 壊れてしまったものを、もとに戻さなければならない。今は、その方法を知っている――。

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『まあ何人か気に入られたり、つきまとわれているやつがいるようだ』
「そうか。あいつ、ひとりじゃないのか」
 エンブリオは怪訝に揺らめいた。この殺人鬼が、どこか嬉しそうに見えたのだ。フォルテッシモに友だちができて、なぜユージンが喜ぶのだ? いや――。
 『友達』の心配をしていたのか。こいつは。

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「おまえが大切なものを持つようになったのは、これは嬉しい誤算だった。それを奪うことで『完成』させることができるんじゃないかと考えたんだ。こちとら生まれたばかりで俺に傷を負わせた愛しい宿敵の成長が、楽しみでしょうがなかったんでな」
 フォルツァートはニヤニヤ笑っている。いつも優しかった目が、別人のような――『半身』のような、磨かれた刃物の切っ先のぎらりとした光を放つ。
「おまえの怒りはもっともだとも、ユージン。フォルテッシモはおまえにとって、たったひとりの〈遊び友達〉だった。
 力を持っていれば使いたがるのが生物だ。誰が上か下かなんて意味がないとほざいていたおまえも、楽しいという気持ちを知った時から、ずっとうずいているだろう。おまえは戦うことが得意だ。相手を騙して殺すことが楽しい。〈最強〉相手にはさすがに勝てないと見計ったが、無理を道理に変えるのがおまえの見切りの力だ。フォルテッシモに勝ちたい。フォルテッシモを壊したい。何度も何度も試せばいつかは答えにたどりつくだろうが、試せるのは一度だけだ。目標は困難であればあるほどたまらない。
 おまえの殺しは遊びなんだ。そんな馬鹿につき合ってくれるフォルテッシモは、おまえがひた隠しにしてきた本心に共感してくれる最高の理解者だった――だが死んだ。またひとりぼっちだ。誰も認めない。誰が強いか弱いかすらわからない馬鹿どもが友達だなんだとうるさく騒いでも、おまえの心にはなんにも届かなかっただろ?」
「香純くんのことを言ってるのか」
 ユージンは呆然と呟いた。
(……「雨と讃美歌」P162より)

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 ユージンは黙りこんだ。熱くなっていた頭が急速に冷えていく。まさか、この単細胞に諭されるような日がくるとは思わなかった。消え入るような声で、「ごめん」と呟く。
「構わねーよ。珍しいものを見れた駄賃だ。それに、友だちだって聞けたからな」
 薄紫色のスーツのような服を投げてよこされた。ユージンは渋い顔になる。
「まさかのペアルック。エキセントリックだね」
「すげー友だちっぽいし」
「友だちよりカップルっぽいよ。困ったな」
 文句を言いながらも、ぼろぼろの恰好で外を出歩くのは目立ちすぎる。ユージンはフォルテッシモの厚意を受けとって、彼のトレードマークの趣味の悪いスーツを借りることにした。
 細かい雨が降っている。停留所にちょうどバスがやってきていた。
ふたりは小走りで乗りこんだ。バスの運転手は、運動着のまま田舎から出てきた修学旅行生だと思ったらしく、軽い調子で話しかけてきた。
「どこからきたの。兄弟?」
「ええ。俺が上で、こっちがひとつ下の弟」
 フォルテッシモが適当に答えた。
「兄さんバス来てよかったね」
 ユージンも話を合わせた。一緒に過ごした時間が長かったから、こういうときのふたりは息がぴったり合う。

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 フォルテッシモは唖然としている。今日まで世界最強の男として生きてきて、誰かに「守る」なんて言われたことはない。自分が弱い者として扱われるなんて――その相手が好敵手と認めたユージンだったことが、余計に我慢がならなかった。
「笑わせるなユージン。おまえごときが俺の騎士きどりか。死んだほうがましなくらいの屈辱だ」
「友達とはどういうものか考えたものがあるのか、フォルテッシモ。おまえから言いだしたことだ」
 ユージンはいつもの抑揚のない声でぼそぼそと囁いた。
「対等の者だけが友達なら、ぼくにはそんなものはどこにもない。それは、たとえば相手が困っているときに、なんとしてもその人のためになりたいって考えて、そのための努力ができるものなんじゃないだろうか。きみは信じないだろうが、誰かに笑いかけられたってそれだけのことで、世界が変わってしまうようなやつもいる。
 フォルテッシモ、ぼくはおまえのことが好きだし、笑顔が見たいと思う。おまえは友達として命をかけるに値する男だと判断した。理由はそれだけだ。友達を守るためなら何も惜しくはない」
「おまえの言う友情は、俺が思うにずれている。もう結婚するかって段階じゃないか?」
「そうかな。まあそれもそれでいいんだけどね」
 だめだこいつ――フォルテッシモの顔はそう言っている。ユージンにはわからない。

+++++++++++++++++++++++++++++++++


「それ見ろ。言わんこっちゃない。おまえに人を守る能力なぞあるものか。カスタネットだけで〈きらきら星〉を演奏しろと言ってるようなものだ。無茶そのものだ」
「音楽にたとえられてもピンとこないね、ぼくは」
 ユージンはとぼけて言った。退く気はない。
「頑固者め、あとでその石頭をぶん殴ってやる」
 フォルテッシモが歯ぎしりをしている。
 目の前で星のような光がちかちかとまたたく。何度か経験したあの発作のような症状のあとで、視界が白く塗りつぶされていった。


 気がつくと天色優は、三都雄といっしょにベンチにすわっている。季節は冬だ。弱い光が枯れた街に差しこんでいる。そこは、最後にふたりで散歩をした公園だった。
 三都雄とはよく話をした。七音は海影とふたりきりになりたがっていたし、辻と神元はもともと同じグループだったから、必然的に二人組になってしまったのだ。三都雄はよく自分たちのことを「あまりものコンビ」と呼んで笑った。
「また頑張ってるな、天色」
「三都雄くんはすごいよ。ぼくにはできないことばかりやる」
 天色はうなだれて溜息をついた。三都雄は大きな体を折り曲げて天色の顔を覗きこんできた。
「おれこそ、天色のことはちゃんと守ってやりたいと思ってたし、いやそれはあいつらみんなが思ってたか。うん、でもうまくなくてさ。逆におまえに守られてばかりだった。おまえがそんな深刻なことを言い出せなくて悩んでることにも、気づいてやれなくてごめんな。はー、おれ、ぜんぜんわかんなくてさ」
 監視対象にそんなことを言われて、天色は苦笑した。
「気づいてもらったら、それはそれで困るよ」
「いや、おまえは嘘がへたくそだって。ばれたらどうしようって悩んでさ、いつも泣きそうな顔して、まわりに大丈夫かって聞かれてちゃ世話ないぜ。ま、おれはおまえのそんなとこ好きだけどさ。いやー、しかしびっくりしたよな。あの天色が、まさか漫画に出てくるみたいな怪人だったなんて。めちゃくちゃかっこいいし、もしもっと早くに知ってたら、おれ握手してほしかったなあ」
「あはは、三都雄くんらしいな――ぼくもきみらのところへすぐに行くだろう。でも困ったことに、また友達を守れないかもしれない。あわせる顔がないよ」
「大丈夫だよ、天色は」
 三都雄は自信満々に胸を叩いて、天色に向かって頷いてみせた。
「芯がしっかりしてるし、ひとつ決めたら譲らないだろ。うまくいくって。おれも手伝ってやるからさ。なんでもひとりでやろうとすんなよ」
 三都雄はいつもの根拠のない自信に満ちた能天気な顔で、「ひとりぼっちのおまえなんかもういないんだ」と天色に言った。大柄な体に似あわない軽やかさで、飛びあがるようにして立ちあがり、ごつい手で天色の髪をぐしゃぐしゃにかきまぜた。
「『それ』、おまえにやるよ。おれは馬鹿だから全然うまく使えなかったけど、天色は頭がいいからなんとかするだろう」
 温かくて柔らかい冠のようなものを頭に被せられた感覚があって、天色は顔をあげた。白い光が眩しさを増していって、三都雄の顔がよく見えない。


 数宮三都雄は、未来に待っている自分の役目をはっきりと知ってしまったとき、臆病な自分にはそれをなしとげられないだろうと考えていた。だから彼には、曖昧な未来の予知しかできなかった。
 ユージンには『それ』が見えた。未来が、はっきりとした形を持って見えた。
 そしてその膨大な情報を、人ではありえない合成人間ユージンの分析能力、これは口蓋(パラトゥ)と自嘲気味に同型が呼んだ演算能力が整然と処理をした。
 ユージン本来の天才的な見切りの力は、その範囲を未来へまで広げたのだった。
 天色が長い間悩んでいた疑問の答えは出た。六人の仲間は未来を知ることができる。それは予知か、創造か。すくなくとも、いま自分の手の届くかぎりでは――。
 何人もの力が複合したそれは、人間がりんごの木の枝から実をもいだり、電気のスイッチを入れたりする、当然のように日常的に行っている干渉だ。人間のはるかに先をいく存在が、当然のように行う世界への干渉。そういう力を持っているものを、統和機構は、そしてかつてのユージンも、こう呼んでいた。
 ――〈MPLS〉と。
 三都雄も神元も辻も海影のことも守れなかった。七音にはあわせる顔がない。すでにユージンには、最後のひとりになってしまった友達を守りぬく未来しか残っていない。
 未来の可能性を生みだすということは、生まれず未来になりえなかったごみだまりの海に溺れていくことだ。
 今更死ぬのは怖くない。たとえ一度でも、この力があれば今度こそ――。

+++++++++++++++++++++++++++++++++

 ユージンを抱いて、その呼吸を確かめると、全身からこれまでなかったくらいにぐにゃっと力が抜けた。
「今日は見逃してやる」
 どこか呆然と、フォルテッシモは言った。
「いまは、手がふさがってるからな」
 黒い筒のようなシルエットは感心したように揺らぎ、沈みこんだ。
「美しいボーイズ・ラブだ。……それで、どっちが受?」
 無言の一撃。
 手ごたえはない。
「プラトニックか、厄介だな」
 飄々と、筒が喋った。

+++++++++++++++++++++++++++++++++


 フォルテッシモは何も言わずに佇んでいる。その表情は見えない。
「ぼくの音楽はおまえだったらしい。あまりにうるさくて、姿が見えなくなっても頭のなかでずっと鳴り響いていた。隣にいたときは、楽しかったなあ」
「そういうことはな、口に出して言わないと相手に伝わらねーし、顔に出してくれねえとわかんねーんだよ」
 フォルテッシモはぶすっとしている。ユージンが左胸に右手の握りこぶしを当てて、綺麗な敬礼をした。両目が細くなった。それが意外で、フォルテッシモは本当に久しぶりに瞠目した。
 ユージンが笑っている。
「もう行くよ。フォルテッシモ」
「……また会うこともあるかもしれねーな、ユージンよ」
「うん、そのときは――」
 華奢な少年のようにも見える姿をしたふたりの、薄い唇の動きが重なった。

 ――殺す。

 音にはならない声。ひそやかな睦言を囁きあったその瞬間、ふたりは、性的絶頂にも似た強い快感を覚えていた。


+++++++++++++++++++++++++++++++++


 そこは人の手の及ばない荒地か、はたまたすべてが終わったあとの戦場だったか。
 厚い雲に切れ目がいくつも入って、そこから金色の光が斜めに射して、赤茶色の大地を撫でている。
 死を告げに降りてきた天使みたいに、ユージンが、ぶらりと戻ってきた。
 それは、特別に強くもなさそうな下っ端の合成人間ごときには、どう考えても無謀だと思える任務だった。
 羊飼いの少年がパン切り包丁を片手に出かけて行って、最新兵器で武装した一個大隊を壊滅させるような、無茶苦茶な仕事だった。それをこいつはやりきったのだ。
 その時、フォルテッシモは思った――「なんだこいつは。意味がわからない。だけどすごいな」、と。
 友とは、感動を与えるものでなければならない。感情を大きく揺さぶる存在、尊敬に値する戦士。フォルテッシモにとっては、それがユージンだった。
 ユージンのほうは、友は命をかけて守るに値するものだという。ふたりの意見は交わらない。ずれている。
 どちらが正しいのか。
「つまりきみは友情というものは、常に驚きと感動に満ちたものでなければならないというんだね」
 ブギーポップが言った。
「それで彼、ユージン君のほうは、守るべき崇高ななにか、たとえば信仰のようなものだという。どちらの言い分も、大して違いがあるとは思えないがね。方向性がずれているだけというか……ちょっとした目の向きの違いみたいなものに見える。好みの漫画雑誌の違い程度の問題だろう。僕としては友だちというのは、いっしょにいるとなんだか楽しいもの、そのくらいでいいんじゃないかと思うよ」
「楽しい」
 そうか、ふむふむと頷くフォルテッシモ。視線が離れた一瞬の間にブギーポップはいなくなっていたが、今日ばかりは気にとめずに、フォルテッシモは自分のなかで繰り広げられる問答に没頭していった。
 ユージンが羨ましいと思うときがある。
 フォルテッシモが遊んでいるゲームはこうだ。いつも無敵状態で、絶対にゲームオーバーにはならないし、どんな難しい面でも必ずクリアできる。開発会社のスタッフが顧客の接待用に作ったデバッグモードゲーム。
 ユージンはそれと同じゲームを、ああでもないこうでもないと頭を悩ませながら、最速最善の一手を機械より正確にうって、クリアする。フォルテッシモはそいつを見て、本物という感じがした。こいつは歴戦の玄人だと。
 うらさびれた埃っぽいゲームセンターで、自分しか楽しむものがいないと思っていたゲームを、心から楽しんでいるやつをふと見かけたみたいな喜びを感じた。
 こんな掃きだめみたいな場所に遊びにやってくるやつが、自分以外にいるのか。こんな糞みたいなゲームを楽しむやつがいるのか。信じられないな。しかもなんだ、こいつ俺より楽しそうじゃないか。
 同類を見つけたときの救いと安堵は、とてもよく似ている。

(エピローグより)

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「俺の親友はとびっきり歌が下手でな。相方が〈フォルテッシモ〉なのにもかかわらず、音楽には疎くてセンスもない」
 冗談や皮肉で言っているのかと思ったが、そうでもないらしい。面白そうににやっと笑う。これほど機嫌が良いのは珍しい。

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(『レプレティメント・「パナギア」』/発行日・サイズ・価格未定)


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